女性アスリートの健康障害

女性アスリートの健康障害に関する問題は、その競技活動や身体的な特性により、さまざまな健康上のリスクが存在することが指摘されています。中でも、利用可能エネルギーの不足、視床下部性無月経、骨粗鬆症は問題として抱えている女性が多く、「女性アスリートの三主徴」とされています。

この三主張の始まりは、利用可能エネルギーの不足と考えられています。

女性アスリートの三主張

1.利用可能エネルギーの不足

身体活動をする上で、エネルギーは必要不可欠です。身体活動で消費するエネルギーは、具体的に以下の3つに分類されます。

【基礎代謝】

呼吸や心拍、体温維持などの生命維持活動に必要なエネルギーで、安静状態での消費されるエネルギーです。平均的な成人の基礎代謝率は、一般的に体重、身長、年齢によって影響を受けます。

女性:約1,200〜1,500kcal/日程度です。
男性:約1,500〜1,800kcal/日程度です。

【身体活動レベル】

基礎代謝+歩行、家事、仕事などの一般的な日常身体活動によって消費されるエネルギーです。

【運動レベル】

身体活動レベルに含まれない、運動によって消費されるエネルギーです。運動の種類・強度・持続時間によってエネルギー消費量は大幅に変動します。

利用可能エネルギー不足とは、

「運動によるエネルギー消費量に見合った食事からのエネルギー摂取量が確保されていない状態」
以前は、摂食障害という定義でしたが、摂食障害の診断がつく以前からの指導・介入が必要だということで変更されました。 運動レベルでの消費カロリーが多くなるアスリートの場合、健康維持と競技パフォーマンスの観点からも、具体的に利用可能エネルギーの算出が不可欠です。
利用可能エネルギー(体脂肪を除いた1㎏あたり)
〔(摂取エネルギー)−(運動消費エネルギー)〕÷除脂肪体重(㎏)※
※除脂肪体重=体重×(100−体脂肪率)÷100(㎏)
摂取エネルギーは、主に食事から摂取した炭水化物、脂質、たんぱく質から得られるエネルギーを指します。

・利用可能エネルギー不足 =30kcal/㎏ 除脂肪量/日未満

・利用可能エネルギー目標値 =45kcal/kg 除脂肪量/日以上

具体的な数値は個人の状況により異なりますが、一般的なアスリートの多くは一般の人に比べて、必要とするエネルギー量が多く、必然的に摂取量を増やす必要があります。

例えば、利用可能エネルギーの摂取45kcalを糖質だけで補った場合、急速にエネルギーを補給することは可能ですが、持続的、効率的なエネルギーの獲得はできません。さらに、エネルギー代謝や骨形成や酸素運搬に必要なミネラルやビタミンも不足するため、それぞれのバランスを考えた食事を取 ることが大切です。

2.視床下部性無月経と骨粗鬆症

原発性無月経(初経発来遅延)

現在、日本人の平均初経年齢は12歳と言われており、遅くとも 17歳頃までにはほぼ全員の女性に初経がみられます。 初経の発来には、様々な要因が影響しますが、身長と体重との関連が報告されており、発育速度のピーク後6ヶ月〜2年後に初経が発来するとみられています。初経遅延の目安として、15歳になっても初経がみられない場合には、一度産婦人科を受診しましょう。

続発性無月経

月経が、3ヶ月以上止まっている状態を指します。続発性無月経には、「生理的」なものと「病的」なものとに分けられます。女性アスリートに多い無月経の原因は、視床下部性無月経に当てはまります。

アスリートの場合、体重コントロールや運動強度が高いことなどを原因に、利用可能エネルギーの不足が発生し初経の遅延、無月経が起こりやすくなっています。 オーバートレーニングや急激な体重減少などの高ストレス下では、ストレス応対ホルモンであるコルチゾールが多く分泌され、GnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)の分泌量が低下し、生理不順や無月経となります。その他、内分泌系の分泌量も低下することがわかっています。

利用可能エネルギー不足=低BMIではありませんが、一つの基準として以下のようにBMI値18.5㎏/㎡を境に無月経の割合に大きな差が出ることもわかっています。

無月経に伴う弊害は様々です。

・アナポリックホルモン(骨形成や全身的な筋量・筋力の機能的パフォーマンス向上…タンパク質同化作用)の低下

-低エストロゲン濃度に伴い、低アナポリックホルモン濃度を示した -レジスタンス運動時にアナポリックホルモンの反応性低下

・運動パフォーマンスの低下

-運動時のアドレナリン・ノルアドレナリンの反応性低下 -低代謝

・血管柔軟性の低下(動脈硬化リスクの増大)

・骨密度の低下

利用可能エネルギー不足による無月経の治療
食事量(エネルギー摂取量)を増やす
または/かつ
運動量(エネルギー消費量)を減らす

3.骨粗鬆症

女性アスリートの三主張は、疲労骨折をはじめとした疲労性骨障害リスクを高めることが明らかになっています。競技特性別の疲労骨折経験者調査で見てもわかるように、無月経の頻度が多い審美系、持久系では疲労骨折の頻度も多いことがわかります。年齢的には、どの競技レベルにおいても、16~17歳の高校生での発生頻度が一番増加傾向にあります。

女性の場合、20歳頃に最大骨量を獲得します。年間の骨量獲得率は12〜14歳(中学生)の時期がピークと言われています。これは、初経が来てエストロゲンが増加する時期と一致しています。このことから、低骨量・骨粗鬆症の予防は、10代が最も重要な時期だと言えます。 加重的負荷のかかりやすいアスリートの場合、骨量が多い傾向にあります。荷重は、骨量獲得のプラス因子となります。非アスリートと比較すると、10〜15%骨量が高いと報告されていますが、水中競技のアスリートの場合、他競技に比べて骨密度が低いこともわかっています。

無月経アスリートの骨密度を測定した結果、どの部位においても通常よりも骨密度が低いことがわかっています。特に腰部の骨密度が低い値を示しました。女性アスリートの低骨量のリスクを高める要因として、以下の2つがあります。

1.10代で1年以上無月経を経験している

2.BMI値が低い

特に、上記の項目1に関しては、20歳以上で低骨量となるリスクが23倍にもなるという数字が出ています。無月経による低エストロゲン状態が長期間続くことは、低骨量のハイリスク因子となります。 現在、骨量増加につながる明確な治療法は少なく、10代での骨量獲得は生涯にわたる骨の健康にとても重要な課題となっています。ジュニア期の骨量獲得の観点からも、早期からの予防とスクリーニングが重要です。以下の2つに当てはまるアスリートには、骨密度の測定を考慮した方が良いとされています。

1.利用可能エネルギー不足のアスリート
成人― : BMI 17.5kg/m²以下
思春期 : 標準体重の85%以下
2.1年以上の低エストロゲン状態が疑われるアスリート(=1年以上の無月経)

エネルギー摂取量増加不良の原因

原因 対策
食事・消化時間が取れない スケジュールの見直し
食欲が落ちる 消化が良く、食べやすい献立に見直し
高強度の練習とこなすため、軽めの食事にする 練習前、中、後の捕食を追加 水分補給で行えるエネルギー補給
食べきれない 量は増やさず高エネルギー食品や材料を選ぶ

改善法

日本人アスリートの場合、トレーニング量が多く、エネルギー不足は非常に起こりやすい問題です。 栄養素としては、糖質の不足が指摘されています。

以下のガイドラインは、国際オリンピック委員会が示すものですが、日本人女性アスリートの場合、無月経であっても、BMI18.5㎏/㎡を超えている場合もあるため、その点も考慮しながらガイドラインの適用が必要です。

スポーツは、日常生活動作以上の負荷がかかります。

歩くのと走るのとでは関節面、結合組織、筋肉にかかる負担は約3倍の違いがあります。
つまり、競技特性を踏まえた予防、治療、リハビリが必要になります。
上記を包括して解決するには、スポーツ栄養学や運動生理学やバイオメカニクス(生物力学)の知識が必要になります。とくにバイオメカニクスは、再発動作を解決するという観点からも、優先順位の高い項目だと思います。
そして、十分な栄養摂取と適切なエネルギー供給が健康維持と競技パフォーマンスに多大な影響を与えるため、専門のスポーツ栄養士や医師とも相談しながら、適切な食事計画などの個別指導が必須です。

参考文献

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